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2026.08.23

一音一音、ひと粒ひと粒。

# Beneインタビュー

音と光がつくる、美しい旋律。

ヴァイオリニスト 本橋はる子 × ジュエリーデザイナー 本橋たかね

――10年の時を経て、もう一度聴く「美しいもの」の話

一音一音が、はっきりと聞こえた。

ベーネのお客様、本橋はる子さんのヴァイオリンリサイタル。
はる子さんは、イギリスでの10年間の演奏活動を終えて帰国されたばかりでした。
演奏が始まったとき、私の心に強く残ったのは、華やかな旋律そのものというよりも、

一音一音が独立して、はっきりと聞こえること。

そして、その一音一音が連なって、ひとつの旋律になっていくことでした。
研ぎ澄まされた一音一音が空間に置かれ、それが次の音へとつながっていく。
そんな演奏に、私は心を震わせられました。
久しぶりに、心臓がどこにあるのか、その早い鼓動ではっきりと感じるような時間でした。
そして不思議なことに、はる子さんの演奏を聴いているうちに、ぼんやりと頭の中を巡っていたジュエリーデザインの方向性が、少しずつ明確になっていくように感じたのです。

空間を微分すると、線になる。
そうすると、無駄な線、余分な線が見えてくる。
線を微分すると、点になる。
その点の持つ勢い、スピードが見えてくる。
それを、どこまでそぎ落とせるか。
そこに、強さが生まれる。

音楽とジュエリー。
扱うものはまったく違うけれど、そこには何か共通するものがあるのかもしれない。
そんな思いから、10年前の対談をもう一度読み返してみました。(ベーネ銀座サロン オーナー 内藤千恵)

10年前、二人は何を語っていたのか

2013年、10年間のイギリス滞在を終えて帰国されたヴァイオリニスト、本橋はる子さん。
現在の日本での活動を始められた頃、ベーネデザイナーの本橋たかねが、はる子さんにお話を伺いました。

偶然にも私と苗字が同じということで、ベーネのお客様からは「親戚なのですか?」とよく聞かれていた二人。
けれど、10年前の対談を読み返してみると、苗字が同じという偶然以上に、二人の間には「美しいもの」に対する共通した感覚が流れていたことに気づきます。
それでは、あの日の会話を、もう一度。

ヴァイオリンを弾くことは、あまりにも身近なこと。

――はる子さん、今日はよろしくお願いします。

こちらこそ、よろしくお願いします。

――熊本の震災の時にベーネの銀座サロンでチャリティー演奏をしていただき、とても嬉しかったんです。心に響く演奏に自然と涙が湧いてきて、なにか心が浄化されるような気がしました。その時はどうもありがとうございました。

千恵さんが「やりたいけどどうしよう」って悩んでらしたから、もしチャリティーをするなら私は演奏でご協力できますよって。(千恵さん:ベーネ銀座サロンオーナー 内藤千恵)

――はる子さんからのお話があって、絶対やろう!っていう気持ちが固まったんです。

2歳半から始めたヴァイオリン

――はる子さんは何歳からヴァイオリンを始められたのですか?私がヴァイオリンを始めたのは2歳半の時からです。

――そんなに小さい時からというと、ご両親も何か音楽をしていらっしゃるんですか?

いえ、私の両親は音楽とは全く関わりがないんです。

――2歳半からだときっと、気が付いたらヴァイオリンを弾いていたという感じなのでしょうね。

ヴァイオリンを始めたときの記憶はないですね。

――それでは、情操教育に良いから、ご両親ははる子さんに音楽を学んで欲しいと思われたのでしょうか?

聞いた話によると、父の大学時代の同級生が近くに住んでいて、そこの息子さん2人によく遊んでもらっていたんです。たしか私より10歳近く上かな。そのお兄ちゃん達がヴァイオリンを習っていて。

お兄ちゃん達がレッスンをしているのを見て興味を持ったのか、家に帰ってからもヴァイオリンの弾き真似みたいなのをしていたから、習わせてみようかってなったみたいです。

ピアノは場所を取るし、父があまり好きじゃなかったけど、ヴァイオリンなら良いかなって。

それくらいの軽い気持ちで。

「ヴァイオリニストになろう」と決めたのは、意外にも最近

――ご両親はきっと、はる子さんの才能を何か見抜かれていたのでしょうね。物心付いたときにはすでに始められていたというヴァイオリンですけど、いつ頃からヴァイオリニストになろうって決意されたのでしょう?

自分からはっきりと舞台に立ち続けたいと意識したのは、正直なところ、ごく最近ですね。

イギリスに行っていた10年間のうち最後の1年は理学修士という演奏とは少し離れた分野を学んでいて、勉強三昧だったんですけど、その時に自分のいる場所はステージ、弾いているほうが自分には合っているって改めて思って。

それまでは、他に選択肢がなかったというか。

――はる子さんにとってヴァイオリンがあまりにも身近だったということでしょうか?

そうですね。当たり前すぎて意識をしていなかったんです。

――ヴァイオリニストになるのは相当大変なイメージがあるので、小さい頃から「私はヴァイオリニストになるの!」って決めてたのかなって、勝手に思っていました。意外と違うものなのですね。

はい、全く。(笑)

音楽家も身体のことを知って、スポーツ選手みたいな知識を身につけたほうがいい。

イギリスでの10年間。

はる子さんは演奏だけではなく、音楽家の身体を医学的、脳科学的に考える分野も学んでいました。

――1年間違う勉強をされていたということですけど、ヴァイオリンとは全く違う分野に進んでみようかなっていう考えもあったのですか?

いえ、ビザの問題があって。あと1年間イギリスに滞在する事が一番の目的だったんです。

その時に、修士はすでに1つ持っていたから博士課程で学ぼうかどうしようかと考えて。

博士課程で学ぶためにはプロジェクトを考えて面接に挑むんです。自分が本当にやりたいプロジェクトじゃないと自分の首を絞めてしまう。とはいえ博士課程となると3〜5年はかかるから、そこまでの覚悟はないし。

どうしようかと迷っていたら、面接をしてくださった教授から修士過程のコースを勧められたんです。

「君のプロジェクトと似たようなコースが今回から新しく出来るから、博士課程ではなく修士過程だけれども来てみないか」って言っていただいて。じゃあ行ってみようかなと。

――今回からちょうどコースが新しく出来たなんて、まさに巡り合わせですね。勉強三昧だったそうですが、その1年間も、ヴァイオリンは弾かれていたんでしょうか?

ヴァイオリンを弾くのはずっとしていました。一応音大なので。

――音大ということは、学んでいたのは音楽の中で違う分野ということですか?

そうですね。音楽家を医学的、脳科学的にみようという。

実際に音楽家はアスリート的なものも要求されるんですけれど、演奏者がそれを意識していることはあまりないんです。

演奏者はもっと自分の身体の事を知って、スポーツ選手みたいに知識を身につけたほうがいい。身体がどう使われて、怪我をした時はどう直してっていう。

その知識を得たことで、私自身も助かっています。

――すごくエネルギー使いそうですもんね、演奏するって。

特にヴァイオリンは不自然な姿勢をするので。私も整体の先生にお世話になってますけど、そういう全体的なサポートが音楽家にはない。自分達自身もほとんど考えていない。

やっぱり、ヴァイオリンが良い

ステージに立たない一年があったからこそ、演奏することが自分に合っていると、改めて感じたというはる子さん。

けれど、実際にはその一年も演奏をやめていたわけではありませんでした。

――ステージに立たない一年があったから、ステージに立ちたい、演奏することが自分には合っているって強く思ったということでしょうか?

その間もステージには立っていたんです。

音大が主催する美術館でのコンサートとか、学ぶコースが違っても、そういったものには申し込みができるので。

時間的に厳しい中でも、自分が演奏することを必要としていたから、コンサートに申し込んで、ヴァイオリンを弾いて、論文を書いてと。

そうやっているうちに、調べる作業も好きなんですけど、これを1年2年続けるのは無理だなと。(笑)

やっぱりヴァイオリンが良いなって。

――そうだったんですね。はる子さんの演奏を聴くことができるので、ヴァイオリンに戻って下さって良かったです。

心地よい音、それ以外は出したくない。

ここから、私たち二人の話は、少しずつ「美しいもの」の本質へと近づいていきます。

――はる子さんのヴァイオリンを聴いたときに、すごく音が澄んでいてきれいだなって思いました。はる子さんは淡々としてそうなのに、音からはすごく力強さを感じたんです。内に秘めた強さみたいな。

私は良く声が小さいって言われるんです。見た目の印象もあって、初対面の方は私が大きい音を出すとは思わないみたいで。

両親が言うには、ヴァイオリンの音の方が本物の性格だろうねって。(笑)

――なにか良い音を出すためにしている事とか、自分が出す音に対するこだわりってあるのですか?

意識的にこういう音を出したいというのは無いんですけれど、

自分が聴いていて心地よい音、それ以外は出したくない。

まずは自分が納得する心地よい音をださないと、お客様にもそれは伝わると思うので。

自分が聴くときも、音が心地よい人の演奏が好きです。

音とデザイン

この言葉を、私は10年経った今でも覚えています。

そして、改めて読み返してみると、あの時はまだ自分の中でもはっきりと言葉になっていなかったデザインの考え方が、はる子さんの言葉によって輪郭を持ったように思います。

――私はジュエリーをデザインしている訳ですけれど、デザイン画がすらすらと描ける日もあれば、何度描き直してもイメージ通りの線がうまく引けないなという日があるんです。ヴァイオリンを弾いたときに出る音っていうのは、毎日けっこう変わるものなのですか?

そうですね。どうしても気分的なものはでてしまいますね。

自分のことだけでなく、お友達が何か悩んでいるのを聞いた時や、どこかで大きな事件があった時とか、音は違ってしまうと思うんです。

でもお客様にとって、それは関係の無い事ですよね。

演奏会の日は舞台に出たら一切言い訳はできないので。気持ちを切り替えています。

――なにか気持ちを切り替える秘訣ってあるのでしょうか?

ドレスを着て、髪の毛をきちんとセットして、ステージの袖で待っていると客席の照明が消えて、その瞬間から自然と気持ちが切り替わるんです。

――お客様は最高の演奏を聴きたいと期待して来てくださっているんですものね。

お客様はお金を払って演奏を聴きにきて下さっている。

その特別な時間を自分の勝手な理由でダメにする訳にはいかないので。

技術より先に、「どう表現したいか」がある。

――音楽を演奏するのには、きっと感性がとても大切なんだろうなって思うんです。素晴らしい感性があって始めて、高度な演奏技術が生きてくるのではないでしょうか。

大学生の頃先生に言われたのが、

どういう音を出したいか、どういう表現をしたいか。明確なものがあればそれに必要な技術はついてくる。

だから感性の方が先かなと思います。

――ジュエリーデザインととても共通する部分がありますね。演奏技術はデザイン画を描く技術にあたると思うのですが、絵が上手かどうかは、良いデザインをする上で一番重要なことではないので。

この言葉を聞いた時のことを、今でもよく覚えています。

「どういう音を出したいか」。

それは、私にとっては、

「どういう形をつくりたいか」。

ということなのかもしれません。

技術が先にあるのではなく、まず自分の中に「こうしたい」というものがある。

そして、それを実現するために技術がある。

音楽とジュエリー。

表現する素材は違っていても、ものをつくるということの根っこには、同じものがあるのかもしれません。

点、線、そして木。はる子さんの演奏を聴いたとき、私の中で、もう一つの考えがはっきりしていきました。

空間を微分すると線になる。

そうすると、無駄な線、余分な線が見えてくる。

線を微分すると点になる。

その点の持つ勢い、スピードが見えてくる。

それを、どこまでそぎ落とせるか。

それが、強さなのだと思う。

たとえば、ベーネのデザインモティーフである「木」。

その木をジュエリーデザインするとき、私はその枝を構成する一粒一粒の点に、どのような勢いがあるのかを考えます。

その根っこは、どのように地面に広がっていくのか。

その枝葉は、どのように天に向かうのか。

その枝の先にあるものは何か。

その根の行き先はどこなのか。

そして、それらはどこで融合するのか。

一つの木を形にするためには、たくさんの点と線が必要です。

けれど、ただ足していけばいいわけではない。

一つ一つの点、一つ一つの線が、それぞれの方向と勢いを持ち、互いに響き合って初めて、一つの「木」になる。

それは、音楽にもよく似ています。

光の粒という、音の連なり。一音一音が独立して、はっきりと聞こえる。それが連なって、旋律になる。

ジュエリーも同じなのではないか。

一粒一粒の光が独立して輝き、それが連なって、一つの形になる。

私はそんなふうに感じています。

ベーネのジュエリーは、光の粒という音の連なりで出来上がる旋律。

そう考えると、ジュエリーを見る目も少し変わってきます。

一つの完成した形だけを見るのではなく、その形をつくっている一粒一粒の光を見る。

その光がどこから来て、どこへ向かっているのかを見る。

そして、その一粒が持つ勢いや、速度まで感じ取る。

はる子さんの演奏を聴いたことで、そんなデザインの感覚が、自分の中ではっきりと言葉になっていったように思います。

美しいものに触れて、感性を磨く。

――はる子さんがヴァイオリン以外に、感性を磨くためにしている事はありますか?

演奏会という特別な空間を作るために、美術館に行ったり映画やバレエを見たり。

お金はかかりますけど、ちょっといい所でお食事をしたり。きれいな宝石を見たり。

特に食事は大事だと思うんです。

優雅な時間を自分で体験するということですね。

――きれいな物を見たり、優雅な気分を感じることは私も大切にしています。

美術館に行ったり、ちょっと優雅にお茶したりもしますが、私の場合は特に、美しい花とか風景を眺めることで一番感性が刺激されるんです。

はる子さんはお菓子を作ったり、お料理をしたりも良くされていますよね。それはリフレッシュのためでしょうか?

ヴァイオリンとは全く違うことをしたいなって思うんですけど、外を歩いたり美術館に行ったりすると、そこから何か色々と考えてしまうんです。

料理は他の事を考えながらだと上手く出来ないので。(笑)

ヴァイオリンとは全く別の事に集中できる時間。

それに、おいしいと嬉しいし、今は両親と暮らしているので、両親に喜んでもらえるのも嬉しいです。

両親だけでなく、本当はどなたかのために作りたいんですけど。(笑)

――はる子さん、とっても器用ですよね。この間作ってた桜の花のお菓子、すごく可愛かったです!

ロンドンでは、音楽が日常に溶け込んでいる。

10年間暮らしたロンドン。

そこでは、音楽は特別なものではなく、日常の中に自然に存在していたといいます。

――ロンドンでの10年間はどんな時間でしたか?

ロンドンでは音楽が日常で、生活の中に組み込まれている。

音楽を聴きに行くのは特別な事ではないし、演奏する方も気軽に開催ができるんです。

――そこは日本とだいぶ違いますね。日本だと演奏会に行くっていうと、特別な感じになりがちですよね。

演奏会はおしゃれして行くところ。特に男性だと1人で行くのはちょっと、って考えてしまう。

――音楽を聴くのに1人も2人もないと思うんですけれど。

そうなんですよね。

あとは、それぞれの国の文化とか行事にリスペクトがあるんです。

ロンドンは国際色豊かで、様々な国の人や、様々な宗教の人がいて、それぞれの国のお祭りや、宗教的な行事を身近に感じることができる。

私自身、帰国後は桃の節句だとか日本の行事を、昔より大切にしたいっていう気持ちになったし。

そういう気持ちを目覚めさせてくれました。

それと実力主義。

私のようなアジア人でも、良いと思ってもらえたら、いくらでも機会を与えてくれる。

その寛容さを感じましたね。

10年間を、良い思い出として。

――ロンドンから戻っていらしたのには、何か特別なきっかけがあったのですか?

やっぱり2011年の東日本大震災が大きなきっかけでしたね。家族と離れていたので。

それと、向こうにいる間にビザの関係で日本に戻らないといけない時期があったんです。

自分のミスではなかったんですけど、なかなかお役所が認めてくれなくて、解決するのが大変だったんです。

その時は仕事も、教えている生徒さんも、なにもかも投げ出して突然日本に帰らなければいけなくて。

もしこれがイギリス最後だったら本当にやり切れないなって思ったんです。

イギリスに10年滞在すると永住権が申請できるので、そのためにがんばって10年間いたんですけど、永住権の申請には過去のビザの問題があるから裁判になるし、最長で2年位かかるだろうって弁護士さんに言われて。

永住権が取れる可能性はあるけれど、可能性がなかった場合には、また同じような状況で何もかも投げ出して日本に帰らなければならない事になるので。

――色々と大変だったんですね。

色々あったけれど、

10年を良い思い出として、きれいに日本に帰りたい。

だから最後は自分で決めて帰ってきました。

最後の1年で理学修士の勉強をしたことは、イギリスでの生活をやり切ったっていう気持ちにさせてくれましたね。

――やりきったという満足感とともにイギリスを後にされたのですね。

現代音楽は、「今」を生きているから出会えた作品。

――はる子さんは現代音楽にも取り組んでいらして、先日伺った演奏会でも源氏物語をテーマにした新曲を披露されてましたよね。新しい曲を弾くことは、はる子さんの中でどういう位置付けなのでしょう?

現代音楽は作曲家が同じ時代に生きているから出会えた作品。

私は大学時代から同級生の作曲家たちが作った曲を演奏しているんです。

現代音楽はちょっと普通のクラシック音楽と違うので、取っ付きにくいとか、聴きにくいっていう人も多いんですけど、

私としては音楽をやる以上、一番古い基礎的な曲から、今生きている人の曲まで、全てを知らないと弾けないと思っていて。

特に新しい曲は作曲家本人から、どういう気持ちで書いたのか聞くことができる。

――そんな事、今生きてる人じゃないと出来ないですものね!

作曲家本人から聞けるのは、ある意味すごくラッキーだと思うんです。

聴きにくい曲だとしても何か理由があるのかもしれないし。

――源氏物語の曲を聴いた時、本当にすごいな〜と思ったんです。ヴァイオリンってこんなにも多彩な表現ができて、すごく可能性があるものなんだって感動しました。

尺八とか琴とかをイメージして、どういう音を出したらいいのか、色々実験したりするんですけど、そういう事は後々クラシックを弾く時にも、表現の一つとして役に立つことがいっぱいあります。

イヤだって最初から線を引くのではなくて、取りあえずやってみようって。

現代音楽に対して、演奏者もお客様も気持ちが動いてくれるといいなって思っています。

――現代音楽も未来のクラシック音楽ですものね。これからも楽しみにしています。

音楽には、専門家も素人も関係ない。

最後に、はる子さんにこんな質問をしました。

――私はクラシック音楽に全然詳しくないのですが。そんな人へのアドバイスはありますか?

専門家でも自分が素人だという人でも、音楽を聴いた時に感じることはみんな同じだと思うんです。

かえって何も知らない子供達のほうが素直な反応を示してくれる。

よく皆さん、音楽は素人なんですとか、良く知らないんですっておっしゃるけれど、

そんなこと関係ないんですよ。

そして、指先に残った音。

この対談から10年。

改めて振り返ると、私には忘れられない光景があります。

はる子さんの弓を取る右手。

その中指で、リングがキラキラと輝いていました。

この日のリサイタルで発表された新曲、組曲《源氏物語》より「若紫」に合わせてオーダーしてくださったリングです。

美しく研ぎ澄まされた点の連続。

その一粒一粒が連なって、一つの形になったリング。

それが、はる子さんのヴァイオリンの演奏とともに、指先で動き、光っていました。

弓を持つ手が動く。

音が生まれる。

そのたびに、リングの光も動く。

その光が、はる子さんの旋律を記憶していく。

そう思うと、なんとも嬉しく、そして身が引き締まる思いがしました。

一音一音が旋律になり、一粒一粒が光になる。

10年前の対談を読み返して、改めて思います。

はる子さんが語っていた、

「自分が聴いていて心地よい音、それ以外は出したくない」

という言葉。

そして、たかねさんが語っていた、

「どういう表現をしたいか。明確なものがあれば、それに必要な技術はついてくる」

という言葉。

そこには、音楽とジュエリーという異なる世界に共通する、一つの考え方がありました。

一音一音。

一粒一粒。

一つひとつを丁寧に見つめ、聴く。

必要のないものを削ぎ落とす。

そして、残ったものが持つ力を信じる。

一音一音が連なって旋律になるように、

一粒一粒の光が連なって、ジュエリーになる。

音が空間に残すものと、光が記憶に残すもの。

その二つは、もしかすると、とても近いところにあるのかもしれません。

あれから10年。

10年前、二人が語り合っていた「音」と「形」。

その後も、その二つはさまざまな形で出会い続けています。

そして2025年には、ベーネで「源氏物語 五四帖の色、音、形 ― 襲 KASANE」という企画が生まれました。

「色」「音」「形」。

異なる表現を重ねながら、一つの世界をつくっていく。

10年前、はる子さんの演奏を聴いた私が感じた、

「光の粒という音の連なり」

という感覚が、10年という時間を経て、また別の形でつながっていったように思います。

美しいものは、突然生まれるのではない。

一音。

一粒。

一つの点。

一つの線。

その小さなものを、どこまで丁寧に見つめられるか。

そして、どこまで余分なものを削ぎ落とせるか。

その先に、心を震わせるものが生まれる。

一音一音が旋律になり、
一粒一粒が光になる。

そのどちらも、時間を超えて、人の心に残っていく。

10年前のあの日に聴いた、はる子さんの一音一音。

その音の記憶を、今もジュエリーの光が静かに受け継いでいるような気がしています。

ベーネ銀座サロンオーナー 内藤千恵

本橋はる子さんプロフィール

東京藝術大学音楽学部卒業。同年に渡英。

YBP国際コンクール優勝。Juneses Musicales International Competition(セルビア)にてセミファイナリスト。2004年、50周年記念パガニーニ国際コンクールに参加。

英国では2005年、王立音楽院の演奏家ディプロマコースを修了。ディプロマならびに修了演奏成績優秀によりDipRAM賞を受賞し、英国国家演奏家資格を取得。Wilfred Parry Prize、Mortimer Development Awardsを在学中に受賞。

2007年、ロンドン大学で現代音楽を専攻し、修士を取得。2012年、王立音楽大学より理学修士を取得。

2013年、10年にわたるイギリスでの音楽活動を終えて帰国。

ソロ、室内楽をはじめ、さまざまな演奏活動を行う。

聞き手/本橋たかね(ベーネデザイナー)
編集/内藤千恵(ベーネ銀座サロンオーナー)

Photo credit:Shigeto Imura
Hair & Makeup Artist:Aya Vanessa