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2026.08.26

若冲の眼差し

# 銀座サロン

――生命を凝視し、細部から宇宙をつくる

一羽の鶏を、ここまで見る。

一枚の葉を、ここまで見る。

一枚一枚の羽毛、一枚一枚の花弁、その奥にある生命の気配まで凝視する。

伊藤若冲の絵を見ていると、そんな「眼差し」を感じます。

写実的なのに、どこか現実を超えている。

細密なのに、全体として見ると圧倒的な生命感がある。

無数の小さな細部が集まり、一つの大きな生命になる。

今回、ベーネが始める新しいジュエリー企画は、そんな若冲の世界から始まりました。

テーマは、

「若冲の眼差し」

若冲は、何を見ていたのだろう。

伊藤若冲が描いたのは、鶏や孔雀、魚、虫、花、植物。

けれど、私たちが若冲の絵を見て感じるのは、単なる「動物の絵」「花の絵」ではありません。

そこにあるのは、

生命そのものを見つめる眼。

たとえば羽毛。

一本一本は小さな線にすぎません。

けれど、それが何百、何千と重なって、羽になる。

鱗もそうです。

花弁も、葉脈も、虫の脚もそう。

一つ一つは小さな単位なのに、それらが集まることで、私たちは「生きているもの」を感じます。

若冲は、生命を大きな塊として描いたのではなく、

無数の小さなディテールを積み重ねることで、一つの生命を立ち上げていた。

そんなふうに私は感じます。

そして、その「眼差し」に、ジュエリーをつくる者として強く惹かれました。

若冲が「筆」で描いたものを、

ケイ スズキは「光」で描く。

今回、私たちが出会ったのが、ケイ スズキ氏の宝石です。

ケイ スズキ氏が手掛ける「Radiant Kiriko Cut®」は、江戸の切子から着想を得た独自のカット。

通常のファセットだけではなく、宝石そのものに微細なカービングを施し、光の入り方、反射、奥行きを生み出していきます。公式の説明では、数ミリ単位の結晶に1mm未満のカービングを重ね、屈折率を考慮した計算と精密な技術によって一石ごとの美しさを引き出しているとされています。

私はこの宝石を見たとき、

「これは、若冲の筆致を光に置き換えられるのではないか」

と思いました。

若冲が、

墨で線を引き、

顔料を重ね、

羽毛を描き、

鱗を描き、

花弁を描いたように。

ケイ スズキ氏は、

宝石の中に線を刻み、光を走らせる。

一石の中に生まれる無数の光。

それは、若冲が描いた無数の羽毛や鱗、葉脈、花弁のようにも見えてきます。

「美しい石」から、「生命を感じる石」へ。

ジュエリーに使う宝石を選ぶとき、私たちは普通、その石そのものの美しさを見ます。

色。

透明感。

輝き。

形。

けれど今回の「若冲の眼差し」では、もう一歩踏み込んでみたいと思っています。

その石を見つめたとき、

何が見えるのか。

光の一粒一粒は、何に見えるのか。

その動きは、羽毛なのか。

鱗なのか。

花弁なのか。

あるいは、一つの眼なのか。

そして、それらをジュエリーとして組み合わせたとき、

どんな生命が立ち上がってくるのか。

5つの眼差し

今回のジュエリー制作では、若冲の世界をそのまま写すのではなく、そこから私たちなりの5つの視点を取り出しました。

01 FEATHER

羽毛

7若冲の鶏を見ていると、羽毛そのものが一つの生命のように感じられます。

一本一本の羽。

その密度。

繰り返される形。

そして、光を受けたときの複雑な表情。

それは、Radiant Kiriko Cut®の光の動きと、とてもよく似ています。

一筋の光。

その隣にまた一筋の光。

さらにその奥に別の光。

小さな光の反復が、全体として一つの大きな輝きになる。

羽毛の密度を、光の密度へ。

若冲の筆線を、宝石のカービングへ。

02 EYE

若冲の動物を見ていると、時々、こちらが見られているような感覚になります。

特に「眼」。

小さな一点なのに、そこに強い生命が宿っています。

ジュエリーでも、一つの石が全体の印象を変えることがあります。

だから、

「眼」には、中心となる強い石を。

その石を中心に、周囲の光が広がっていく。

見る者と見られるもの。

その視線が交差する一点。

それが今回の「EYE」です。

03 BLOOM

花は、一枚の花弁だけでは花になりません。

小さな花弁が幾重にも重なり、

中心に向かって集まり、

そして一気に外へ開いていく。

その構造には、生命が内側から外側へ膨張していくような力があります。

BLOOM――生命の爆発。

宝石の光もまた、中心から外へ向かって広がっていく。

一石の輝きを、一輪の花のように。

そして、いくつもの石を組み合わせることで、花が咲くようなジュエリーへ。

04 SCALE

魚の身体を覆う無数の鱗。

一枚一枚は、とても小さい。

けれど、その小さな単位が規則正しく重なったとき、魚の身体全体に独特の質感が生まれます。

これはジュエリーにとても近い感覚です。

一石の宝石だけではなく、

小さな石。

小さな彫り。

小さな光。

それらを繰り返し、重ね、連ねる。

「一つの美しさ」ではなく、「無数の美しさが集まった美しさ」。

それがSCALEです。

05 SWARM

若冲の作品には、たくさんの生命がひしめくように描かれたものがあります。

一羽。

一匹。

一輪。

一枚。

それぞれは小さい。

けれど、それが集まることで、一つの巨大な生命感が生まれる。

SWARM――群。

ジュエリーも同じです。

一粒の石ではなく、

数多くの石が集まる。

光が重なる。

反射が交差する。

その瞬間、一粒ずつでは想像できなかった大きな世界が現れる。

「個」が集まって「宇宙」になる。

それが、私たちが考えるSWARMです。

一石の中に、どれだけの世界があるのか。

今回の企画で、私たちが一番大切にしたいのは、

宝石を「見る」こと。

そして、

宝石の中に何が見えるのかを考えること。

です。

普通なら、宝石は「色がきれい」「よく輝く」というところで見終わってしまうかもしれません。

けれどRadiant Kiriko Cut®の石は、光が単純に一方向から返ってくるだけではありません。

カットされた面。

刻まれた線。

石の内部。

そこに入る光。

反射する光。

そして、見る角度によって変わる表情。

一つの石の中に、いくつもの世界が生まれます。

それは、若冲の絵を見る感覚にも似ています。

近づけば近づくほど細部が見える。

けれど、少し離れると、それらの細部が一つの生命として立ち上がってくる。

「若冲風」ではなく、「若冲の眼差し」で。

今回、私たちは若冲の絵をジュエリーにしたいわけではありません。

鶏の形をそのままジュエリーにする。

孔雀をそのままモチーフにする。

花をそのまま写す。

そういうことではありません。

私たちが惹かれたのは、

若冲が何を描いたかではなく、
若冲がどのように世界を見ていたのか。

その眼差しです。

一つの生命を、どこまでも細かく見る。

小さなものを見逃さない。

一つ一つを積み重ねる。

そして最後には、細部を超えた大きな生命を感じさせる。

その考え方を、現代のジュエリーへ。

若冲の筆から、ケイ スズキの光へ。

若冲が生きたのは江戸時代。

そして私たちは、21世紀に生きています。

時代も、

素材も、

技術も違います。

けれど、

「見る」という行為には、時代を超えてつながるものがある。

若冲が筆を持って生命を凝視したように、

現代の私たちはルーペを覗き、

宝石を回し、

光の動きを見つめる。

そして、デザイナーはそこから形を考える。

一つの石を見て、

「これは羽毛だろうか」

「これは鱗のようだ」

「この光は花の中心に似ている」

「この石は、眼のように強い」

そんな対話を重ねながら、一つのジュエリーが生まれていきます。

光の粒から、一つの生命へ。

ベーネのジュエリーにとって、

「点」

は、とても大切な存在です。

一粒の宝石。

一粒の光。

一つの小さな点。

それらが連なって線になり、

線が形になり、

形が一つの生命になる。

これは、以前から私がデザインについて考えてきたことともつながっています。

空間を微分すると、線になる。

線を微分すると、点になる。

そして、その点には勢いがある。

速度がある。

方向がある。

それらをどこまで削ぎ落とし、どこまで残すのか。

その一点の強さが、全体の強さになる。

今回の「若冲の眼差し」は、そんなベーネのデザイン思想とも深く重なっています。

生命を凝視する。

若冲の眼差し。

ケイ スズキの光。

そして、ベーネのデザイン。

三つの異なる世界が、一つの場所で出会います。

見ること。

細部を感じること。

小さなものを積み重ねること。

そして、

そこから、まだ見たことのない生命をつくること。

一粒の宝石から始まった光が、

羽毛になり、

眼になり、

花になり、

鱗になり、

そして群となって、

一つの宇宙へと広がっていく。

「若冲の眼差し」

――生命を凝視し、細部を積み重ねて宇宙をつくる。

その眼差しを、

一石の宝石に。

一つのジュエリーに。

そして、

身につけることのできる小さな宇宙に。

これから少しずつ、その形をご紹介していきます。

どうぞ楽しみにお待ちください。

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