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2024.04.17

<美意識と少女のような好奇心と純粋さ>『ココ・シャネル 女を磨く言葉』(PHP文庫)著者 髙野てるみさんに聞く

# イベント情報

媚びない、おもねらない、妥協しない。女の自立を成し遂げた先駆者的な生き方。女性が自由に生きるという精神。

ココ・シャネルの生き方は、その時代から1世紀たった今でも、いえいえ、21世紀の今の私たちにこそ大切な<女の生き方>をメッセージしてくれる、そんな風に感じています。
ココ・シャネルのような生き方は難しい?彼女は特別な存在?
『ココ・シャネル 女を磨く言葉』著者 髙野てるみさんのインタビューから、そんな疑問が一掃され、そのヒントが私たちの身の回り、そこいら中にあることに気が付きます。

青:ベーネ銀座サロンオーナー 内藤千恵
黒:巴里映画代表取締役プロデューサー、シネマ・エッセイスト 髙野てるみ

美意識は日常の生活や街の中から何かを学び取り、気付くことで育っていく。

_______小さなころから、すごくフランスにあこがれがありました。
私、ブログにも書いているんですが、フランス映画『シェルブールの雨傘』、フランスの国語の教科書、ペイネの日記、水色とピンクが合わさっていたり、人の感情がカラフルなモチーフとなって描かれていたり、もうその色彩にカルチャーショックで、すごく憧れて。

それが、内藤さんの美意識を育んだのですね。
ベーネの社長さんは、内藤さんのその美意識を活かそうとなさっているんでしょう。社長さんは、ジュエリーの工房を自分でもやって行けるんだけれど、この人の美意識に賭けてみたいと思って、内藤さんを会社に招いたんだと思いますよ。
その美意識があったからこそ、銀座で5年目を迎えられたと思うんですよね。

_______わ、なんか照れちゃいます。

やっぱり美意識っていうのは、お金があるからとか、たくさん経験を積んでいるから、とか言うことでは身につかないと思います。
ココ・シャネルは、<贅沢がエレガンス>でないことを、自身の人生で身をもって証明しました。
小さい時親と別れて預けられた修道院で見た「白」と「黒」の色が何より美しいと気が付く。
同じ環境にあっても気付かない子もいるわけです。
その後大人になっても、いくら自分の周りに美しいものがあっても、気付かない人がいます。自分は人より劣っているんじゃないかとか、自分の家は貧乏じゃないかと思い込んだり。
ココ・シャネルは幼少時代修道院で厳しく育てられ、その後貴族社会に囲われていきます。
貴族がしていたおしゃれは、シャネルにとっては美しいと思えなかった。ドレスにしても、歩きにくいし、ごてごてしたドレスは、女性たちの顔を引き立てるものではない。
帽子ひとつとっても、こんな重くて動きにくいものを被ってどうやって歩くのか?どれもこれも、男性が女性にしゃなりしゃなり歩かせるものばかりだと気付きます。
ココ・シャネルは自分がそういう世の中を見て、何!この醜いものはと思って、自分が良いと思うものを作ったら、大評判になったというわけ。

ここ数年くらいでしょうか、美意識って、世の中から無くなっちゃったみたいですね?

_______<生き生きとしていれば、醜いということはない><人は怠惰の中で醜さに慣れてしまう>というココ・シャネルの言葉。
生き生きとしていて、夢見て疲れを知らない子供のような心があれば!と髙野さんの著書には書かれていました。

「私は、もう少しこうだったらもっとこれこれができたのに!」と言う方って、やる前からまず言い訳が先に出る。
私たち団塊世代からすると、若い世代の方たちはずいぶんと恵まれているし、世の中、物質的にはなんでもあるし、みんな綺麗で、自由に仕事もできるし、都会では一人で夜道を歩いても平気だし(笑)。家庭や学校でも彼女たちを咎めないようですしね。
それなのに、どこか、いつも自信がなくて、不満がある。
不満だらけで、目の前にある幸せってことに気が付いていない方をよく見かけます。それと、自分を知ろうとしないことと、美意識についてのこだわりがないようです。

今は、女性も仕事をしていて当り前。
仕事をしないと食べられないからと言う前に、自分の存在をはっきりさせるためにも仕事をすべきなんで、そこまで女性の自由は得られている。ですから、そこに一人一人それぞれの価値観があっていいはずなんですがね。
ちょっと前までは、人は無意識にでも美意識があったと思います。
自分の美意識を全開にして服を作り、最終的にビジネスとしても成功したのがココ・シャネルなんです。生き方そのものにも美意識が生きていて、凛としていました。

_______これだけ美しくて贅沢なものに囲まれているのに飢えてる。
毎日の生活の中に小さな幸せって、本当にたくさんありますよね。
見過ごしちゃうというか、そもそも気が付かないとか。

「私のやってきたことは少女の気持ちでやってきただけよ」と、ココ・シャネルは言っています。
例え世の中がどう言おうが、自分にとっては、「それは違うんじゃないかな」と言う、疑問を持つことが大切なことなのだと。少女の精神には、そういう力があると言うわけです。私もそう思うんです。
少女の気持を忘れていると、若くても老成しているような印象になりますよね。少女力ってすごいですよ。いろいろなものを発見するし、動きも頭の回転も早い。
少女力がない若い女の子たちを、なんとかしてあげなくちゃなんて勝手に、おせっかいにも思っているんですけど(笑)

私たちの幼少時代は、無邪気な心でいろんなものを発見して面白がって。そんな家庭、社会の環境がありました。

_______茶目っ気みたいのものが出せなくなっちゃった?
わ~、面白いなって。これ何とかできないかしら。
あんな風にしたい、こんな風にしたいって、何か子供っぽく、親にダダこねるような、色んなものに出会って行って、楽しんでいけたら、もっともっと自由になれるんじゃないかなって。

そうですね。
アスファルトの隙間にスミレが咲いたとか、椿が咲いてる~~
わ~~、って。
そういうの、見つけてしまい、打ち合わせの時間に遅刻しちゃったりして。
無邪気な心でいろんなものを発見して面白がって。
私が、感謝しているのは、親が食事を作りながらとか、毎日の生活の中でそういう感性を育てるためのいろいろなことを教えてくれたように思います。
でも、今は世の中、お茶目してはダメ!みたいなことになっていませんか?(笑)

ココ・シャネルの言葉のひとつに、「翼がなければ、どんなことをしてでも翼を生やしなさい」というのがありますが、どんなことをしても欲しいものがあれば、自分のものにしたいと思って、努力したらいいという、そういう気持を持って欲しいです。若い方々には。
友達が10人いて9人から、「何それ?」って言われたっていいじゃないですか?自分の美意識やセンスで、「これ、私が気にいってるのよ!」と言っていい。
何か誰かに言われたことをするのではなくて、ね。
お金がなくても、もっと幸せになれるはず!
毎日小さな幸せがあることに気付きましょう。

<マス>という大量にあるものに囲まれているうちに、こだわり=美意識が無くなってきてしまった?

例えば、私が今インタビューしていただいてる場所は、巴里映画GARAGE(多目的ギャラリースペース)といいます。ここを造ったんですが、やはりずいぶんこだわりましてね、2年近く。
最後には、執筆の仕事も止めて打ち込みました。どうしても自分はこうしたいという美意識、こだわりを形にしたかったんです。

巴里映画の多目的ギャラリー&サロン GRRAGE (ガラージュ)

_______本当に美しいサロンです。先ほど、建物細部までご案内いただいきましたが、扉に施された文字のフォント、その位置、手すりの角度、壁の傾斜、窓の位置。どれをとっても髙野さんの美意識があふれ出ていて、こちらにいるだけで、何かクリエイティブな気持ちが掻き立てられます。
美意識を貫き通すことって、すごくわがままなことのようだけれど、自分のことを大切に思うことにつながると思うんです。
その美意識を強く持っていると、共感してくれる人が集まってくる感じ。
こちらのサロンには、いつもたくさんの美意識が高い方が集まっていらっしゃる。

先日、映画監督になりたいと言う方がいらっしゃって、「何を作りたいんですか?」と伺うと、何を作ったらいいか教えてもらいたいとおっしゃるんです。
「映画を作るには、やりたいことっていうのがなきゃダメで、そのやりたいことっていうのが、あなたのセンスとか美意識がなければ映画は成り立たないんですよ」と答えました。
映画ってそういうものですよって。
あなたが今作りたい!と思うものがなければ、作れない。
お金を出す人もいないでしょう。
一緒に作ろうという人も集まらないでしょう。
例え、人が見たらセンス悪いって思われてしまいそうなものでも、その人の美意識なら自信を持っていいわけです。

それぞれの価値観があっていいはずなんですよね。

_______ココ・シャネルの美意識は、完全美の宝石も崩しちゃいましたよね。

ココ・シャネルは、高価なものを男性から贈られたりすることは、自分がその男性に「買われる」ようなものだ、と言っています。
実際に、もらったネックレスを全部壊して研究のための素材にしてしまう!というエピソードまであるくらい。
もらったネックレスを首から下げていることに、我慢できなかったんです。
その考え方から、「ビジュー・ファンテジー」というイミテーション・ジュエリーを生み出すことになります。
イミテーションなのに、お値段はかなり高かったんだそうで(笑)。彼女が生み出したものですから、天然の宝石よりも価値があった!
自分が着たいもの、自分が気に入ったもの、自分が美しく見えるものに徹底してこだわり、実践した女性だったのです。

_______ココ・シャネルは美しいだけの服だと忘れられやすい運命にあるということを確信していた人だと、髙野さんの著書ココ・シャネル 女を磨く言葉』(PHP文庫)で読みました
私のいる宝石業界はちょっと前までは男の世界で、宝石の輸入も製造も販売も。
ダイヤモンドは4Cの評価があったり、ルビー、サファイアはこういうのが高品質だっている決まりごとがある。
でも、私は専業主婦からの起業だったから、そういう宝石業界の決まり事を知らなかった。
知らないって強いですよね。

そうなの。素人って強いし、今の時代はプロと素人の境目がなくなったと思うんです。
私は洋画配給の仕事って、素人からスタートしたわけですが、ゆえに暴れまわれたように思います(笑)業界を知らないので恐いものも知らない!(笑)
ココ・シャネルもファッションを学校で学んだわけではないんです。修道院で学んだ裁縫を頼りに、自分の感覚を信じて様々なものを生み出しました。
第一次世界大戦が始まって、自転車で女性たちも工場に行って働きます。
そこで、バッグを肩から下げるショルダーバッグが生まれ、シャネルバッグが誕生します。
コルセットもはずして着用する動きやすい服を作るとか、必要に迫られて、実用的な服が生まれ、自らがファッションリーダーとなり、貴族たちも、それを真似たといいます。
ココ・シャネルはキューリー夫人と並んで20世紀の最大の女性発明家だと、劇作家のバーナード・ショーが言うほどでした。

美しいもの、面白いもの、どきっとするものを無邪気な少女のように見つけ出す。

_______素人の感覚って大切なんですね。
素人って、ちょっとコンプレックスに思っていた時期もあったのだけれど、これ綺麗、あれ綺麗と、無邪気さがあったからこの宝飾業界でオリジナルのカラーを出してこれたんですね。私は足が太くって、足が上から下までズトンと太い。
それで、ずっと足を隠すってことをしていたんです。
それまでは膝を出すような恰好をしない、身体を隠すスタイルだったんです。
コンプレックスを隠すスタイルだったんです。
けれど、美しいパンプスを履けば足首ができてくるってことに気が付いて。

私がこんなに着込んでいるというのに、内藤さんはノースリーブのワンピース姿、素晴らしい!
いつ、今のようなスタイルに?

_______この会社始めて2年たった時、突然。45歳の時です。
なんか、身軽になりたかったんです。
重たいののをしょってると次のことができないよねって。
そんな時、やっぱりフランスやイタリアのマダムってすごく素敵だなと思って。
しみとかぷにゅっとしたお腹とか平気で颯爽としていて。
すごく自由でゆとりがあるように感じたんです。
会社やってると、いろんなことがありますから。
それじゃあ、重いものは全部捨てちゃえって。
そこで私は、ひざ下と袖を捨てたんです。
そんなわけでノースリーブを一年中、着るようになった。
今考えると、隠すって窮屈だったんだと思うんです。

窮屈な女にならないってことで、いいですねー。
体験して、チャレンジして、そのうえで気付くことになれば、賢くなっていきますね。
その中でも、勇気あるピュアな女の子のような魂を持ち続けるということ。
退屈な日々の中にいてばかりで、魂を老化させてしまってはいけない。
欠点は魅力の一つになるのに、隠すことばかりを考えたり…。
欠点はうまく使いこなせばいいとココ・シャネルも言っていましたね。

「美意識と少女のような好奇心と純粋さ」。
これを持ち続けたら、いつもいつも若々しくいられるでしょう。
そしてココ・シャネルは私たちの心の中にいるんです。それだけでなく、私たちもココ・シャネルのような可能性を持っている。そう思って良いと思います。

髙野さんのご著書ココ・シャネル 女を磨く言葉』(PHP文庫)、ココ・シャネル 凛として生きる言葉』(PHP文庫)は、私にとって、とっても大切なバイブルとなっています。
時代を経ても、その言葉は新鮮で力強くエレガント。
読み返すたびに、それら珠玉の言葉は、新しい意味を持って私の心をくすぐります。
(聞き手・構成 ベーネ銀座サロンオーナー 内藤千恵)

ベーネのジュエリーケースにはココ.シャネルの言葉が

ベーネの通常梱包ケース、その内側にはココ.シャネルの言葉が配されています。
「装いは知恵であり、美は武器。そして謙虚さはエレガンス」
La parure, quelle science!
La beaute, quelle arme!
La modestie, quelle elegance!

髙野てるみ(たかのてるみ)
映画プロデューサー、エデイトリアル・プロデユーサー、シネマ・エッセイスト、株式会社ティー・ピー・オー、株式会社巴里映画代表取締役。
東京生まれ。美大卒業後、新聞記者、『anan』など多くの女性誌の編集者・ライターに。その後雑誌・広告の企画制作会社『T.P.O.』を、次いで洋画の配給・製作会社『巴里映画』を設立、代表取締役として運営。多くのフランス映画の配給、13年にはアカデミー賞ノミネート作品の『パリ猫ディノの夜』を公開。著書として『あなたを変えるココ・シャネルの言葉』(イースト・プレス)、『恋愛合格!太宰治のコトバ66』(マガジンハウス/読書推進運動協議会2014年「若い人に贈る読書のすすめ」選定)、『ブリジット・バルドー女を極める60の言葉』、近著に『ココ・シャネル凛として生きる言葉』(両誌ともPHP文庫)、編著書に『映画配給プロデューサーになる!』(メタローグ)ほか。映画関連の執筆、大学や自治体、カルチャーセンターで映画関連の授業・公演活動も行う。

T.P.O. http://www.pariseiga.com/tpo.html
巴里映画 http://www.pariseiga.com/pariseiga/company.html
FB http://www.facebook.com/terumi.takano.7